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離婚をした人たちに、どういう風に離婚をしたのか? と聞くと、「夫婦喧嘩の勢いで『離婚だ!』『望むところよ!』とあっさり離婚」、「離婚を望んだ夫(妻)の“圧力”に負けて、つい署名してしまった」というケースも少なくありません。
しかし、CiaoLab離婚の知恵袋の監修者・弁護士の磯野清華先生は、「勢いで離婚してしまうと本来、もらえるはずだったお金をもらい損ねている場合も少なくありません」と忠告します。
また、2020年4月1日より民事執行法が改正され、これまで多かった「養育費が支払われない」「元夫と連絡が取れない」という問題を解決できるようになるのだそう。磯野先生、詳しく教えてください!
民事執行法の改正については、後述しますね。
まず、離婚の基礎知識 三つの離婚方法 でも解説したように夫婦間の話し合いによる協議離婚の場合でも、財産分与や慰謝料、養育費など「お金にまつわる取り決め」をしっかりしておく必要があります。
おさらいになりますが、協議離婚の場合は慰謝料、財産分与、養育費などすべてにおいて「夫婦間の話し合い」で決めることができます。しかし、離婚の協議で決着がつかずに、調停離婚となり、それでもこじれて裁判離婚となった場合、慰謝料や財産分与、養育費はすべて法にのっとった金額での決定になります。
調停離婚、裁判離婚の場合、養育費や婚姻費用は算定表に基づいて算出されます。子供の年齢や人数、支払う側(義務者)の年収、受け取る側(権利者)の年収によって金額が異なります。算定表は最高裁判所のHPからダウンロードできるので、参考にしてくださいね。
つまり、協議離婚の場合は、財産分与や養育費など含めた金額を自由に決められる、ということですか?
そうですね。実際に、協議離婚の場合、離婚を申し出ている側から破格の金額が提示がされることがあります。例えば、協議離婚の話し合いのときに「慰謝料と財産分与で合わせて2000万円払う、養育費は月々20万円払うから離婚してくれ」というような気前のいい申し出があったとします。でも、この申し出を拒み調停離婚となったら、この金額が必ずしも守られるとは限らなくなってしまうのです。
気前の良い提示をされたときは、協議離婚に応じるほうが賢明な場合もあるのですね?
このような気前の良い提示がされるときは、私の経験では夫が不倫をしている場合がほとんどです。早く離婚して不倫相手と一緒になりたい事情があるのでしょうね。配偶者の不貞(浮気・不倫)があった場合、「慰謝料が欲しい」と考える人は少なくありません。それに「2000万円も払って、そこまでして私と離婚したいの!」と頭に血が上ってしまいやすいのです。お気持ちはわかるのですが弁護士として言わせていただくと、このタイミングは「離婚届の最高値」でもあります。なので、配偶者から破格の条件とともに離婚を切り出された場合は、冷静に財産分与、養育費のことをしっかり考えたほうがよいですよ、とアドバイスしています。
でも、家にどのぐらいの預貯金や財産があるかは夫も妻もそれなりに把握しているので「そんなに払えるわけがない」と高をくくってしまいそうです。
じつは、意外と配偶者が預貯金や財産について知らないケースも少なくないのです。例えば、配偶者の社内持ち株や財形貯蓄。夫が独身時代から給料天引きされているような場合、気づきにくいのですね。妻が給与振込の口座を預かっているような場合、夫の給与明細をいちいち確認しないことも多いのですよ。そのようなところに「まとまった財産」が隠れている場合もあります。
また、これも盲点になりやすいのですが、生命保険や学資保険の解約返戻金(解約時に戻ってくるお金)や離婚時点での年齢での退職金相当額も、財産分与に含まれます。
今、手元にない退職金も含まれるのですか?
そもそも、財産分与とは「婚姻期間中に夫婦で形成した財産」のことを指します。専業主婦であっても、夫の稼ぎには妻の貢献があった、という法律的な判断になるのです。つまり、将来、夫がもらうであろう退職金にも婚姻期間中は妻の貢献があったからこそのもの、ということです。
取らぬ狸のなんとやら、のようにも感じるのですが……。退職金が財産分与の対象になるとは知りませんでした!
確かに、退職金は「将来的に受け取るであろう」もので、事情がどう変わるのかはわかりません。そこで、離婚した時点で退職した場合の退職金の額を概算する、という考え方になります。共稼ぎであれば、夫婦ともにです。年金分割もまだ年金を受給していなくても、婚姻期間の分は分割の対象となります。また、配偶者のどちらかが事業を営んでいる場合は、その事業に関わっていなかったとしても財産分与の対象になります。
財産と言えば「持ち家だけど、住宅ローンが残っている」というケースも多いと思います。
住宅ローンは、まずローンの契約内容、不動産の名義がどうなっているのか? 夫婦の共有名義なのか、ローンの残債がどのぐらいあるのか、不動産としての価値はいくらぐらいか、などを調べる必要があります。それらの内容によって、どう財産分与するのか? を決めます。ケースごとに事情が異なりますから、法律相談をされるとよいですね。
勢いで離婚することのデメリットがよく分かりました。配偶者の不貞(浮気・不倫)の場合、「慰謝料ぶんどってやる!」と頭に血が上りがちなのですが、冷静に考えなくてはなりませんね。
そもそも慰謝料とは「精神的な苦痛に対して請求する」ものです。配偶者の不貞行為、いわゆる不倫や浮気があり、それが離婚理由となった場合、不貞行為を働いた方の配偶者、有責配偶者と浮気や不倫の相手に慰謝料を請求することができます。ただし、不貞行為より以前から夫婦関係が破綻していた場合は、慰謝料の請求が認められない可能性があります。また、配偶者の浮気、不倫の相手が「既婚者だとは知らなかった」というような場合は、不倫相手への慰謝料の請求はできません。
配偶者と不倫相手に慰謝料を請求する場合、調停離婚や裁判離婚などで決定した額は「2人から受け取る慰謝料の額」になります。仮に300万円だとしたら、「配偶者と浮気相手が折半して支払う」ようなイメージです。
2人からそれぞれ300万円もらえるのではないのですか?
それぞれからの慰謝料の額ではないのです。また、どちらが支払うのかは、受け取る側は決められません。「不倫相手には経済力がないので、配偶者が全額支払う」こともあり得ます。不貞(浮気・不倫)以外にも、配偶者からの暴力や暴言があった場合も、慰謝料の請求は可能です。さらに「離婚をすることによって被った精神的苦痛」に対しても慰謝料を請求することができます。
離婚理由が「セックスレス」という場合でも慰謝料は請求できるのですか?
合理的な理由のない「性交渉の不存在」は離婚理由にもなりますし、慰謝料請求が認められる可能性もあります。断り続けているのは、けっこうリスクがあるということを知っておいた方がいいですね。
セックスレスを軽く考えてはいけませんね。セックスレスから不倫や浮気に走ってしまうケースも少なくないのですが……。離婚の法律のことを知れば知るほど、「夫婦ってなに?」って思います。先ほど、磯野先生がおっしゃっていた「養育費の不払いや前夫の所在不明などの問題が解決できるようになる」ことについて、教えてください!
まず、養育費は「払ってもらえない」というイメージが強いと思うのですね。実際、不払いというケースは少なくありません。しかし、その「不払い」がこの民事執行法の改正により、白日の下にさらされることになります。不払いをしている側からすると「逃げも隠れもできなくなる」ということです。
詳しく教えてください!
財産開示手続という制度の改正により「第三者からの情報取得手続き」という制度が新設されます。これにより裁判所から銀行に照会をして相手の銀行口座のある支店を突き止めることができるようになるのです。さらに、養育費を払っていない相手の現在の勤務先などが分かるようになります。
ここまで聞いただけで、逃げも隠れもできなくなりそうなのが分かります。
ここから先は想像がつくと思うのですが、銀行口座や勤務先が分かれば差し押さえをすることができるのですね。なので、養育費の不払いを徹底的に追及することが可能になるのです。こうした法改正の後押しもありますので、お子さんがいるのならば養育費の取り決めをしっかりしたほうがよいです。そもそも養育費はお子さんの生活費のための費用です。仮に月に3万円と決まったとして、離婚時点でのお子さんの年齢が5歳。社会人になるまで大学に進学したらあと17年あります。年間36万円が17年で612万円になります。
子供の人数が増えれば、月々の養育費も増えますしね。
そうですね。加えて、養育費は先ほども言ったようにお子さんの生活費です。この中には「通常の学費」や「部活の費用」等一般的な支出は含まれていますが、「私立の学費」「進学のための予備校代」「特殊な習い事代」等は養育費には含まれていません。
え? そうなのですか? 知人の男性が「元妻から子供の私立の学費を請求された。養育費を払っているのに」とぼやいていたので、てっきり養育費には学費なども含まれているのかと思っていました。
離婚時の取り決めできちんと、養育費の趣旨を確認していなかったのかもしれませんね。なので、先ほどの養育費の概算に加えて、学費は別途請求することも可能となるわけです。慰謝料を2~300万円請求して払ってもらうよりも、養育費と学費等そのほかの費用をしっかり押さえた方が長い目で見ると……。
総額としては、養育費とその他をしっかりもらい続けた方が大きくなります!
不貞(浮気・不倫)をされると、傷つきますし「慰謝料が欲しい」という気持ちも、分からないでもないのです。ですが、これから先の生活はとても大事です。お子さんがいるなら、なおさらです。なので抜かりなく財産分与をして、養育費をしっかりもらう算段をつけることを、おススメしています。それに、詳しくは後ほど説明しますが「慰謝料的財産分与」という方法を取ることもできるのです。
目先の慰謝料より、財産分与と養育費のことをしっかり考えることが大切ですね。
ひと口に財産分与といわれていますが、財産分与には「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の三つの種類があります。一般的な「財産分与」でいうところは「清算的財産分与」になります。これは、結婚している間に夫婦で形成した財産を清算する、という趣旨です。
夫婦解散で財産清算、ということですね?
その通りです。その財産の貢献度に応じて公平に分配するものです。ここで、勘違いしてしまいがちなのが、離婚理由が相手の有責によるもの、つまり不倫や浮気などの不貞行為があった場合です。清算的財産分与においては、離婚理由は影響しません。つまり、「不倫した」という事実とは別に、あくまで夫婦生活の中でどのくらい財産を築いたかという観点から分配されます。
扶養的財産分与は、離婚により配偶者のどちらかが生活に困窮する場合に、生計を補助するという扶養的な目的で財産を分与することを指します。離婚するときに、持病があった、専業主婦(主夫)だった、高齢など事情はさまざまですが経済的に弱い立場の配偶者を扶養するために、一定期間、継続的に支払う方法が取られることが多いです。
こんなに手厚いのに、離婚後に経済的に困窮するケースが後を絶たないのはなぜなのでしょうか?
それぞれに事情があるのでしょうが、勢いで離婚してしまっているのではないか、と思います。離婚届に署名、捺印して役所に提出さえすれば離婚できてしまうことが一因でしょうね。また、DVなどがあって「一刻も早く、離婚したい」と焦ってしまうケースもあるのかもしれません。
結婚しているときから、モラハラと生活費を渡さない経済的DVがあったという話も聞きます。そういうケースですと、精神的にもまともにモノを考えられなくなってしまいますよね。
そうですね。精神的にいっぱい、いっぱいだと冷静な判断ができないと思います。なので、法律相談を利用していただきたいですね。初回の相談が無料という事務所も増えていますし、行政が行っている無料法律相談もあります。有料の場合でも30分5000円~ですので、ためらわずに相談してもらえたら、と思います。
いよいよ先ほどお伺いした「慰謝料的財産分与」ですね!
慰謝料の意味合いも含めた財産分与のことを言います。基本的には「公平に分配」されますが、そこに慰謝料を含めるのです。
とはいえ、すべてのご夫婦に財産があるとは限りません。持ち家や車はあるけれどローンが残っている場合も少なくないでしょう。現金を山分け、という風に単純に「分ける」といかないことも多々あります。
家や車をローンで購入していて、まだ小さい子供がいて、なおかつ片方が有責配偶者で離婚する、というような事例ですと財産分与、かなり骨が折れそうです。この大変さが浮気や不倫を「やめよう」と思う抑止力になればいいのですが……。離婚話に発展しないと、この大変さに気づけなかったりもするのですよね。
そうですね。離婚理由が何なのか。離婚するときのご夫婦の年齢、お子さんの年齢や学齢によって、お金の問題はかなり変わってきます。くれぐれも勢いで離婚しないこと。精神的に追い詰められている状態ならば、法律相談を受けることを覚えておいて欲しいですね。
そして、離婚をしたのちにご本人もお子さんも「幸せ」になるためには「お金」しかないのも現実です。身もふたもない、と思われるかも知れませんがそれが現実です。ツラい気持ちはわかりますが、お金についてだけはシビアに考えていただきたいな、と思います。
ありがとうございました!
次回は「離婚と苗字」についてお届けします!
監修:弁護士 磯野清華 (いその せいか)
まだデータがありません。
誰かに恋をしたり、愛したり。そこには人の数だけドラマが生まれます。とはいえ、そのドラマは必ずしも素敵なもの、とは限りません。出会って恋に落ち、結婚をした二人でも、別れを迎えることもある。恋が道ならぬモノであることも、少なくありません。
私たちを取り巻く「恋愛事情」や「夫婦の関係」は時代とともに、大きく様変わりしてきました。
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