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親は子どもが成人するまで「親権者」として、父親、母親が共同で親権を持ちます。
子供にとっての両親が婚姻関係にある場合、親権を意識することはほとんどありません。けれど、婚姻関係の解消、すなわち離婚という事態になると話は変わってきます。
子供が未成年の場合、離婚後は父親、母親どちらか一方が親権を持つことが民法819条で定められています。親権は子供との同居はもちろん、子供の将来の選択や面会交流にも関わってくるため、双方の親が「親権を得たい」と主張することになるのです。
では、なぜ父親か母親、どちらか一方を親権者に決める必要があるのでしょうか?
そもそも「親権」は法律の定めによるものです。そして、日本では「父親か母親、どちらか一方が親権を持つ」とあり、単独親権という制度になっています。
アメリカ、フランス、イギリス、ドイツなど欧米諸国では共同親権が認められています。問答無用で単独親権しかない日本は、世界の潮流からも「遅れている」という見方が強くなっているのです。
そんな時代にあって、日本の単独親権という状況はこのまま続くのでしょうか? 本コラムの監修者・弁護士の磯野清華先生に聞きました!
じつは、日本でも関係省庁で共同親権を認めてもよいのではないか? という議論がされはじめています。近い将来、日本でも共同親権が認められるようになる可能性もゼロではありません。とはいえ、「ならば共同親権になるまで離婚を先延ばしにする」というのは、ちょっと早計です。まだ議論段階であり、結論が出るには早くて数年はかかるでしょう。
可能性はあるけれど、今すぐにということではないのですね。日本では離婚後の親権は母親が持つことが、圧倒的に多いという現状があります。その理由は後述しますが、そのため父親と母親が親権を主張したために、協議離婚できずに調停、裁判へと進むケースが少なくないのだそう。
そもそも、司法では親権は「子供にとっての幸せ」を重視して判断されます。なので、親権を父親と母親、どちらが持つかを決めるときに、その時点でどちらの親と暮らす方が子どもにとって幸せかという観点が大事になります。また、子供がどちらの親と暮らしたいと思っているかについても、子供の年齢が上がるにしたがって考慮されるようになります。
ちなみに、20歳以上の成人であれば親権は発生しません。しかし、現実的には20歳はまだ学生ということも少なくありません。一人暮らしの学生ならばともかく、親御さんと同居している場合、両親のどちらと暮らすのかという話し合いは必要になりますね。
「日本では母親が子どもの親権を持つことが多い」と前述しましたが、その理由は何なのでしょうか?
現実的に主に母親が子どもの世話をしていることが多いからです。先ほどお話したように、法の下では「子供が幸せになれるかどうか」ということをもっとも重視して判断が下されます。具体的には、どちらの親が主に子供の世話をしていたか、ということが親権者の決定にあたり重視されます。
この「世話」は食事や入浴、寝かしつけ、幼稚園や保育園への送迎など「日常生活においての世話」を意味します。
ドライな表現になりますが「家事や育児の実務」ということですね?
その通りです。そのため、「そもそも生活費を稼いで一家の面倒を見ているのは父親である自分だから、親権も父親にあるべきだ」という主張は通らないのです。
母親の「ワンオペ状態」というご家庭では、父親が親権者にはなれないのですね。
では、父親が親権を取るには、どうしたらいいのでしょうか?
保育園や幼稚園の送り迎え、朝食と夕食づくり、お風呂、寝かしつけまですべて、父親が主体的に行っていたケースでは、父親が親権者となりました。一般的には子供の世話は母親がメインでしているご家庭が多いですが、中には家事や育児をまったくしていない母親もおり、それが離婚理由になることもあります。そのような場合は、父親が親権者になる可能性が十分ありますので「自分は男親だから不利だ」とあきらめないで欲しいな、と思います。
極端な話、日々の世話のほとんどを父親が担っている状ならば「育児もこなしつつ、不倫にも精を出していた」夫でも、親権は認められます。つまり、離婚の原因となった不貞(不倫)行為をしたという事実と、「子供の世話への貢献度」は分けて判断されるのです。
とはいえ、この「子供の世話への貢献度を重視される」ということに、異論を唱える父親も多いのではないでしょうか?
そうですね。仕事をしてお金を稼ぐのも子供のためでもありますので、実質的な世話が優先されることに、異議を唱える男性も少なくありません。しかし、裁判所はあくまでも子供にとって大事なのは日々の世話だという立場に立って判断します。
経済的な部分については、養育費という形で離婚後も負担することはできます。けれど、実質的な世話は今までも、これからも必要です。なので、これまで実質的な世話を担ってきた親のほうが親権を持つ、という判断になるのです。
つまり、父親であっても母親であっても「親権を取る」ということは「子供の世話への貢献度」が重視される、ということ。不倫や浮気を始めとする夫婦関係の破綻の予感がしているものの「どうしても親権だけは譲れない」という場合、裁判所の判断をもとに行動することが大事なのですね?
その通りです。「なんらかの理由で夫婦関係が破綻しそうな予感がある。でも、親権は譲れない」というときは、子どもの世話への貢献度を高めていくこと、これに尽きます。家事や育児を自分が主体となって行ってきたという実績を作り上げていくことですね。主体的に家事や育児をこなすことを半年から1年くらいやっていれば、十分に実績として認められます。
もっとも、今まで家庭をかえりみなかった夫が、そこまで家事や育児に貢献するようになったら、夫婦関係も良好になっていきそうですね。
雨降って地固まる、ということになればいいですね。先ほどもお話したように、お子さんの年齢が高まるにつれ、日々のお世話で貢献度を示しにくくなりますが、お子さんから親権者に選ばれるためにも、子供としっかり向き合っていることが大事ですね。
「親権は取れなかったけれど、子供と一緒に暮らしている」という話を聞いたことがあります。これは、どういうことなのでしょうか?
親権と監護権を分けて、父親と母親がそれぞれに持っているケースですね。
監護権とは民法820条の子供の権利のひとつなのですが、「子供と生活を共にし、世話や教育を行う権利・義務」のことをいいます。
そもそも親権は「財産管理権」と「身上監護権」という2つの権利と義務から構成されているのです。多くの場合、親権とひとくくりにして、2つの権利を持ちます。しかし「母親が親権を持ち、父親が身上監護権を持つ」ということも可能なのです。
とはいえ、こうしたケースはあまり多くありませんし、よほどの事情がない限りは、私はおすすめしていません。
おすすめされない理由は何なのですか?
ひとことでいうとデメリットが大きいからです。そもそも、親権と監護権をわけて、うまく機能させていくには、元夫婦の関係が良好に保たれていることが欠かせません。しかし、婚姻関係が破綻して離婚に至っているわけですから、対立することは十分に予想される。そうなった場合に子供がこうむる不利益が大きいのです。
監護権には子供の法律的な手続きを保護者として行える権利、すなわち「財産管理権」は含まれていません。そうなると、子供が事故に遭った、急病になったなどして緊急手術が必要、というような一刻を争う事態に速やかに親権者が手術の同意書に署名できるか、と考えると現実的ではないですよね。
そういうケースを想定すると、一緒に暮らしている親がすべての権利と義務を持っていた方が結果的に子供の幸せにつながると思います。
起こり得る事態を想定してシミュレーションすると、親権と監護権を分けて持つ場合、離婚後も元夫婦が近くで暮らすこと。そして、子供の親同士という新しい関係で、連絡を取り合うなど、密にコミュニケーションが取れるケースでないと難しいですよね。
そもそも密なコミュニケーションが取れるようであれば、離婚をしていなかっただろう、ということにもなりますしね。「親権が欲しい」と思ったときは、今のことだけでなく、将来はもちろん、万が一の時のことも含めた上で「子供の幸せ」を考えることが大切だということが、よくわかりました。
次回の記事は「離婚とお金」について弁護士の磯野先生にお聞きします。
監修:弁護士 磯野清華 (いその せいか)
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