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前回の記事で離婚には3つの段階があることを解説しました。
夫婦の話し合いによる協議離婚、協議離婚では話し合いがまとまらなかった場合には調停離婚へ。そして、調停でも離婚が成立しなかった場合に裁判離婚に発展します。
離婚裁判では、民法で定められた明確な離婚事由(理由)によってのみ離婚の可否が判断されます。そもそも「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と民法で定められているため、夫婦関係を破綻させた責任の有無を明らかにする必要があるのです。
民法ではどのようなことが「離婚事由」と定められているのでしょうか?
それぞれの離婚事由の具体的な事例について、弁護士の磯野清華先生にお聞きしました。
Q:1の「不貞な行為」ですが、具体的にどのようなことが不貞行為に当たるのでしょうか?
A:配偶者以外の相手との性交渉、すなわちセックスをすることが不貞行為に当たります。性交渉の有無がポイントとなるため、「手をつないでデートした」「熱い抱擁をかわした」「キスをした」といったことは、感情的には不倫や浮気と考える人が大半だと思いますが、法律での不貞行為の定義には該当しないのです。そのため「彼女のことは好きだし、デートもした。でも、セックスはしていない」と本人が主張し、その主張を覆すことができなければ、不貞行為があったとは言えなくなります。
とはいえ、性交渉があったかどうか、そのものズバリの証拠を第三者が押さえることは現実的には不可能ですよね? そのため、不貞行為の有無は状況によって判断されます。
例えば、「男性上司と女性部下が会社の一室に2人きりで一緒に入り、3時間後に出てきた」という状況では会議をしていたという可能性もありますし、まさか会社の一室で性行為に及ぶと通常は考えられないため、不貞行為とは認められにくいのです。
また「一緒に出張に行ったときに、ホテルの同じ部屋で2人きりで過ごしていた」という状況だった場合は、その時間帯が注目されます。「17時〜19時まで一緒に過ごした」のであれば「部屋で夕食を食べながら、打ち合わせをしていた」という説明も信ぴょう性があります。けれど、「22時から2時まで同じ部屋で一緒にいた」のであれば、打ち合わせという言い訳もかなり怪しくなってきます。
「ラブホテルに2人で入って2人で出てきた」「出張先のホテルで同じ部屋に泊まった」となれば、「不貞行為」があったと推定されます。このように、いろいろな状況を複合的に検証して「不貞行為に当たるか」が判断されるのです。
Q:5の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」とは、具体的にどのようなものがありますか?
A:配偶者によるDVが、もっともわかりやすいケースですね。また、長期間の別居、別居でなくても完全に家庭内別居で、それが長期間にわたって継続されているような場合も当てはまります。家庭内別居の定義は、炊事や掃除などの家事がまったく別の状態を考えていただくといいでしょう。食事が別で相手の分の洗濯も掃除もしない、部屋も別といった状態です。もちろん、これらも「事実、そうであった」と第三者が理解できる証拠が裁判では必要になります。具体的には、DVによる怪我の診断書や音声の証拠。家庭内別居についてはなかなか証明が難しいですが、ひとつ屋根の下ではあるけれど、生活が別である状況がわかる写真を撮っておくとよいですね。
Q:不倫をしたことは認めつつも、「不倫相手のことを愛してしまったので、離婚して欲しい」というような形で、不貞をした配偶者からは離婚を申立てることができない、というのは本当でしょうか?
A:不貞をした配偶者から離婚を申し立てることは、可能です。不貞行為のあった配偶者を法律用語で「有責配偶者」というのですが、有責配偶者から離婚を申し立てることはできるのです。しかしながら有責配偶者が離婚を望み、他方が離婚を望んでいない場合には「有責配偶者からの離婚請求は原則として認められない」という最高裁判所の判例があります。そのため、有責配偶者から離婚の申立てをすることは現実的ではない、というのが正しい理解になります。
Q:離婚をする前に別居をするケースもありますが、別居期間は何年くらいから、離婚が認められるようになるといった基準はあるのですか?
A:何年といった明確な基準や法律での定めがあるわけではないのですが、近年では3年間くらい別居し、その間何の連絡も取っていないという状態であれば夫婦関係は完全に破綻しており、離婚してもお互いに不利益もない、とみなされる傾向になっています。この3年というのは、混同されやすいのですが、離婚事由の3の「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき」の3年とは根拠が異なります。つまり、生死が3年明らかでない、というのは法律で定められた期間です。
一方の離婚が認められる別居期間というのは、年々短くなってきているという特徴があります。今、3~5年間の別居で離婚が認められる現実的なラインになっていますが、短期間でも認められるようになったのは、この10年間位のことでしょうか。私見ではありますが、恐らく離婚件数が増えてきたことも背景にあるのだと思います。
また、かつては「婚姻によって家という形を保持しなければいけない」という昔ながらの価値観が根強くあったと思うのですが、最近は「お互いが幸せに生きるためなら、前向きに生きられる道を模索したほうが良いのではないか」という風に、価値観が変わってきたことも影響しているのだろうと思います。
Q:4の「強度の精神病」とは、具体的にどのような症状を指すのでしょうか? 例えば、「配偶者が重いうつ病を患っている」ようなケースも該当するのですか?
A:4項に当てはまる精神病というのは、夫婦が生活していくのに必要な協力義務や扶養義務が果たせない状態のことを指します。ニュースなどでよく見聞きすると思うのですが、刑事裁判で「心神喪失により責任能力を弁護人が争う」ということがありますよね? そこでいう心神喪失の状態より軽くても、先ほどの義務を果たせないと考えられる場合には、このケースに該当します。
ただし、精神病はなりたくてなるものではありませんし、これを安易に認めてしまうと離婚された側の生活が成り立たなくなる可能性があります。そのため、精神病の程度が「強度である」と認められないケースはそれなりにあります。
不倫をしている配偶者、有責配偶者からの離婚請求は原則、認められない。ということは、不倫をされ、離婚をして欲しいと懇願されたとしても「絶対に離婚はしません」と突っぱねることができる、ということ。しかし、世の中には「有責配偶者からの離婚請求は原則認められないことを知っていながら、離婚調停に持ち込む有責配偶者も珍しくありません」と、磯野弁護士はいいます。
離婚調停に持ち込む有責配偶者たちの目的は『相手を疲れさせ、離婚を受け入れるように仕向けること』のひと事につきます。調停は1年から1年半と、長期的に裁判所に出向いたり、調停委員と向き合って辛い過去を振り返らなければならなかったりと、非常に精神的負担の大きい行為です。『こんなことを続けるくらいなら、離婚した方が良いのでは』という展開に持ち込もうという作戦なのです。
このような法律を悪用する行為は、もちろん許されるものではありません。弁護士の立場からも、決しておススメはしないそう。でも、万が一、有責配偶者から調停の申し立てをされた場合はどうしたらいいのでしょうか?
調停に出ない、というのはひとつの選択になりえますね。調停は必ずしも出なければならないというわけではありません。ただ、連絡もせずに無断欠席ですと、調停委員たちも真意をはかりかねてしまうので、『離婚に応じるつもりはないので、調停には出ません』と電話を入れておくとよいですね。とはいえ、ごく稀に、有責配偶者からの離婚請求を認めうると判断されるケースもあります。例えば、長期間別居していたり、未成年の子どもがいないといったケースです。
離婚と法律について知れば知るほど「丸腰で臨むリスク」を痛感します。次回のテーマは親権についてです。
監修:弁護士 磯野清華 (いその せいか)
誰かに恋をしたり、愛したり。そこには人の数だけドラマが生まれます。とはいえ、そのドラマは必ずしも素敵なもの、とは限りません。出会って恋に落ち、結婚をした二人でも、別れを迎えることもある。恋が道ならぬモノであることも、少なくありません。
私たちを取り巻く「恋愛事情」や「夫婦の関係」は時代とともに、大きく様変わりしてきました。
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