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「夫婦は支え合うもの」だということは、皆さんの共通認識としてあるでしょう。
ほとんどの人が、それぞれ漠然とした夫婦像や配偶者への期待というものを抱いています。なんとなく「夫婦とはこういうものなんだから、これくらいしてほしい」という思いが、あるのではないでしょうか?そしてその中身はというと、かなり個人差があるでしょう。
しかし法律上明確に定められている夫婦の義務は、皆さんが想像しておられるものと少し違うかもしれません。
民法第752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」として、夫婦の同居・協力・扶助義務を明記しています。
つまり、同じ家に同居して、配偶者が困っているときは協力して支え、収入の多い方の配偶者は他方にも自分と同レベルの生活をさせるべきだということです。
夫か妻の片方だけが、相手に一方的に尽くすというものではありません。あくまでも“お互いに”負っている義務であるということに、注意が必要です。
もともと赤の他人だった男女が、何十年間にもわたってひとつ屋根の下で仲良く暮らすというのは、実際にはなかなか難しいことも多いようです。法律上は夫婦であっても、夫婦生活を送る中で色々あって、もはや愛情も信頼関係も尽き果ててしまうことがあるでしょう。
そうなれば、上記のような同居・協力・扶助義務をもはや負いたくないと思うかもしれません。大嫌いで信頼できない相手のために、なぜ必死に働いたり家事をしたりしなければならないのか?そう思うのは、自然な感情の流れです。
しかし法律の拘束力というのは絶大で、その瞬間の感情に左右されるものではありません。
どれだけ相手のことが憎くても、離婚する瞬間まで夫婦の義務は継続します。
同居義務については、“離婚を前提とした別居”や“相手によるDV”など、正当な理由があれば負わなくても良いとされています。
しかし離婚を前提として別居をしている場合でも、扶助義務は継続しますので、収入の多い方は少ない方に婚姻費用(婚姻生活から生じる生活費)を渡し続けなければいけない可能性が高いです。
たとえば、夫の不貞行為が理由で家を出て別居を開始した専業主婦の妻は、夫に対して別居中の婚姻費用を請求できます。もし夫が出し渋るようであれば、裁判所で“婚姻費用分担請求”という手続きを申請する選択肢もあります。
しかしこれにも例外があり、家を出た妻の方に不貞行為などの落ち度,つまり婚姻関係を破破綻させた原因があれば、生活費は請求できないことがあります。
専業主婦なのだから、毎日必ず手料理を作れ。冷凍食品やレトルトは禁止。出汁は昆布やかつお節からとること。体調不良でも妊娠中でも、言い訳は聞かない。俺は熱があっても会社に行っている!
……モラハラ夫が、一方的に価値観を押しつけてくるケースです。専業主婦の妻は、夫の言う“専業主婦の義務”に従うべきなのでしょうか?
このケースの夫は、「自分が養ってやっている」「経済力で妻を支配できる」「だから妻は自分の言うことを聞くべき」という考えから、このような高圧的な態度を取っているのでしょう。
しかし法律上では、専業主婦の妻は“養われている”“支配されている”のではなく、対等な立場で役割分担をしていることになります。“夫は外で労働、妻は家事・育児・家計管理”を担っており、一方的に指図される筋合いはないと言えます。
今回のケースでは、夫は「冷凍食品・レトルトはやめてほしいんだけど……」という意見を述べて妻と対等な立場で話し合うことは出来ても、一方的に命じることはできないと考えられます。
妻が家事・育児を完全に放棄して遊び歩いているのであれば、民法第752条の義務に違反しているおそれがありますが、妻が“自分の仕事を自分の考えたやり方で、自分のペースで”やっているのであれば、それを夫が強制的にかえさせることはできないと考えられます。逆に妻が夫の仕事に「やり方が悪い」と干渉して指図してきたら、この夫は激しく反発するでしょう。
一昔前と違い、冷凍食品の進歩や時短グッズの充実などで生活様式も変化していますし、夫婦生活のありかたも変化しています。これからは様々な価値観を人それぞれが持っていることを前提に、互いを尊重する生活が重要になってきます。
「義両親(舅姑)と同居して、身の回りの世話や介護をするのは嫁の義務だ」という古い価値観に苦しめられている女性も、いまだに沢山います。
結論から述べますと、法律上、妻が義理親に一方的に尽くす義務はありません。ですから、「妻は必ず義両親と同居しなければならない」「妻が義両親を介護しなければならない」というのは間違いです。
しかし、夫は民法730条の規定により親を扶養する義務があります。そして冒頭で説明したように民法第752条の“夫婦の協力義務”がありますから、夫との結婚生活を送る中で付随する家族づきあいの一環として、夫の両親ともある程度協力し合う必要は出てくるものです。
夫婦に子どもが生まれれば、義両親も孫の面倒を見てくれたり、教育費を援助してくれたりすることもあるでしょう。ある程度は“持ちつ持たれつ”で、柔軟に考えても良いと思います。
しかし、妻だけがひとりで我慢しなければならないというのは、間違った状況だと言えます。なるべく義両親とうまくやっていこうと妻が頑張っているのに、夫は悩み相談を一切聞いてくれない。それどころか、夫は義両親の味方をする。義両親と夫が結託して、妻を虐めながら酷使する。
……このような状況では、妻ひとりが我慢して頑張っていることになり、夫側は夫婦の協力義務を果たしていないことになります。
場合によっては、民法第770条に定められる法定離婚事由“婚姻を継続し難い重大な事由”に該当し、妻からの離婚請求が認められる可能性もあります。
なお妻は義両親の法定相続人ではありませんから、どれだけ介護をして尽くしても、遺産を相続することはできません。しかしこれではあまりにも不公平だということで、2019年7月1日からは介護親族から相続人への金銭請求権が認められるようになりました。相続開始から1年以内に手続きしなければならないなどの厳しい条件がありますが、 過酷な立場に置かれていた女性たちが今までよりは報われるようになるかもしれません。
法律上は嫁に介護義務はないとはいっても、様々なしがらみから逃れられない女性もいらっしゃるのではないでしょうか。この新制度について気になる方は、一度弁護士に相談してみましょう。
冒頭で、夫婦には同居義務があると説明しました。夫から暴力を振るわれて身の危険を感じている場合にも、これは当てはまるのでしょうか?
この点、“正当な理由”さえあれば、義務違反にはならないとされています。今回のようにDVから逃れるケースもそうですし、他には単身赴任、病気の治療のための別居なども考えられます。
後で「DVから逃れるために家を出た」と主張するために、なるべく証拠を集めておくこともお勧めします。たとえば、DVの音声を録音したデータ、医師の診断書、各都道府県にある配偶者暴力相談支援センターへの相談記録などが証拠になるとされています。
共働きで同じぐらい多忙なのに、家事・育児にはノータッチな夫に悩む女性も多いです。この場合、夫は夫婦の協力義務に違反している可能性があります。夫が家事・育児に非協力的であることを示す証拠を揃えれば、離婚事由として認められるかもしれません。
万が一離婚することになった場合、夫婦共同で築いた財産を分け合う“財産分与”の手続きをすることになります。
財産分与の割合は原則として2分の1ずつですが、財産形成の貢献度に明らかな偏りがあると判断された場合には、より貢献度の高い方が多く受け取る可能性もあります。
夫と妻の年収がほぼ変わらないのに、夫が家事・育児を一切しなかった場合には、妻が2分の1以上の財産を受け取ることになるかもしれません。
『秒速で必ずビリオネアになれるハイパーメソッド』などという数十万円の情報教材を、夫が購入したらしい。うちにはお金がないのに、夫は怪しいセミナーにも参加してお金をつぎ込んでいる。指摘すると、「俺は必ず大金持ちになってお前を幸せにする。それまで支えてほしい。妻なんだからお前がパート代から払え!」と言われた。
正直もう離婚したいんだけど、結婚中に夫が作った借金は私が支払わなければならないの……?
民法第761条には「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う」と記載されており、夫婦には日常家事連帯責任があることがわかります。
“日常家事により生じる債務”とは、文字通り“日常生活から発生する細々とした義務”のことです。毎日の食材や生活必需品、通販で頼んでおいた普段着、子どもの教材、家族の娯楽費などをイメージしてください。何らかの理由があって夫婦の一方が支払えない場合には、片方の配偶者が代わりに支払う責任を負っています。
しかし今回のケースのように、“日常生活から通常発生する支払い債務”のレベルを明らかに超えている場合には、たとえ夫が「家族のためを思って買った」と主張しても、妻は連帯責任を負いません。
何円までが日常家事債務と言えるかは、その家庭の収入・社会的地位や生活状況によっても異なります。大金持ちの家庭では日常家事債務の範囲とされる買い物であっても、収入の少ない家庭では認められない可能性もあります。
なお、“夫婦関係が既に破たんして別居している場合”“第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合(民法第761条但し書き)”は、例外的に少額の日常的な買い物であっても連帯責任を負わないとされていますので注意しましょう。
セックスレスを理由に離婚ができると聞いたことがある方は多いでしょう。では、セックスをすることは、夫婦の絶対的な義務なのでしょうか?
セックスレスについての判例の中では、「夫婦間の性交渉もその意味では通常伴うべき婚姻の営みであり、当事者がこれに期待する感情を抱くのも極当たり前」「婚姻が男女の精神的・肉体的結合[j2] 」などとして、夫婦生活の中で性交渉が重要な位置付けにあることは認めています。
しかしこれは、拒んでいる相手に無理強いできるという意味ではありません。
性交渉を拒否する理由が単に「気乗りしない」「嫌いになった」などの理由であったとしても、相手の意思に反して無理やり性交渉をすれば、夫婦間でも強制性交等罪・準強制性交等罪(刑法176条・177条)が成立するとされています(夫婦間では立証が難しいという問題点はあります)。
民法上は、性的DVに当たるとして、法定離婚事由の“その他婚姻を継続しがたい重大な事由(民法第770条)”と判断され、慰謝料を請求できる可能性もあります。
なお病気やケガなど正当な理由があるセックスレスであれば、離婚事由にはならないと考えられています。
法律上の夫婦の役割・義務は、慣習上期待されているものと異なる部分もあることが、お分かりいただけたかと思います。しかし様々な事情から、ご自身の本音に反して、配偶者やその家族に従わざるを得ないという方もいらっしゃるでしょう。その場合であっても、正しい法律知識を知っておくことで、後からもらうべきお金をもらって決着を付けることもできるかもしれません。たとえ今すぐ動けないとしても、事前に弁護士に相談して、いざというときのための準備をすることはできます。
まだデータがありません。
誰かに恋をしたり、愛したり。そこには人の数だけドラマが生まれます。とはいえ、そのドラマは必ずしも素敵なもの、とは限りません。出会って恋に落ち、結婚をした二人でも、別れを迎えることもある。恋が道ならぬモノであることも、少なくありません。
私たちを取り巻く「恋愛事情」や「夫婦の関係」は時代とともに、大きく様変わりしてきました。
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